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SIDE 公 ①

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-05-02 23:00:42

送っていく車の中で、紅羽は眠ってしまった。

妊娠するとホルモンのバランスが変わって眠たくなることもあるらしいし、つわりも体調の変化も人それぞれ。

症状も、一概にこうだと言えるものはない。

まあ、命を1つはぐくもうと言うんだからそれなりに体の負担は避けられないのだろう。

それにしても、どうしたものだか。

こいつが母親になるなんて、想像もできない。

いつも真っ直ぐで、正直で、それでいて不器用で、心配で目を離すことができなかった。

最初は妹を見るように見ていたのに、いつの間にか手を出していた。

近付けば近づくほど彼女の側を離れられなくなって、お互いを恋人と認識するようになった。

二人の関係を隠したつもりはない。

一緒に手をつなぎ、堂々と街を歩きたかった。

でも、余計なことを口にしない紅羽にあわせているうちに、秘密の交際のようになってしまった。

それが・・・子供ができるなんて。

「うぅんー」

助手席から聞こえてくる紅羽の声に幸せを感じる。

こんな時間をずっと過ごせたら、いいだろうなあ。

「かわいい顔して、強情な奴だ」

***

俺の両親はごく普通の会社員と専業主婦だった。

小さなアパートに4人暮らしで、俺の上に姉がいる。

体の弱い母は働きに出ることもできず、決して裕福ではなかった。

父は寡黙で真面目な仕事人間。

母は、元々金持ちの娘だったらしい。

駆け落ちして一緒になったと大きくなってから聞かされた。

そんな母も、俺が13歳、姉貴が15歳の時に病気で死んでしまった。

母の訃報を聞いて駆けつけた祖父は「お前が娘を殺したんだ」と父に罵声を浴びせた。

葬儀の後、俺と姉貴は母の実家に連れて行かれたが、父は止めなかった。

一生懸命頑張りすぎた父は、母が亡くなる前から心を壊してしまっていて、病院を出たり入ったりの暮らしだった。

そんな父に子供を育てられるはずもなく、どうしようもない選択だったのだろう。

3年後、父は病院で亡くなった。

金持ちの家とは言えすで

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    秋。私も、小児科医として働くことに慣れた。相変わらず部長には嫌われているけれど、上手にかわせるようにもなってきた。「あれ、山形先生また痩せたんじゃありませんか?」「そ、そんなことないですよ」病棟師長の鋭い突っ込みに否定してはみたものの、さすがによく見てる。「体調管理万全にお願いしますね。もうすぐインフルの季節なんですから」「あー、はい」毎年、寒くなると小児科は目が回るほど忙しくなる。インフルエンザの患者や、肺炎、ぜんそくの患者で病棟はいっぱいになってしまうから、そんなときに小児科医が体調不良なんて言ってはいられない。「紅羽、本当に大丈夫なの?」「うん、大丈夫。ありがとう」夏美まで顔をのぞき込むから、一応笑って見せたけれど、本当はちょっとまいっている。実は、一昨日の夜公がうちにやって来た。平日なのに珍しいなあと思っていると、「辞表を出した」と何の前触れもなく告げられた。それに対して、私はただ頷くことしかできなかった。今の生活がいつまでも続くとは思っていなかった。いつかは考えなくてはいけないことだと思っていた。でも、こんなに早く・・・「後任もすぐには見つからないだろうから、春までは嘱託医としてこれまで通り勤務することになると思う」「そうなの」平日は診療所で勤務して週末はこっちに帰って来るという生活に、当面変化はないってことだ。きっと、家に泊っていくのだろう。「春からどうするの?」私は思い切って聞いてみた。「今、考えてる」「そう」それ以上は何も言えなかった。公のこれからの人生に私の意見は入らないんですか?って言えたらいいのにと思いながらも、かわい気のない私には無理だ。***夜、私たちは同じベットの上で肌を合わせた。お互いに寝付けないのは気づいていた。「朝になったら帰るの?」「いや、診療所は無理を言って休診にしてきたから

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    夕方。今日は部長がいないお陰で定時で上がることができた。翼のことが気がかりだけど、昨夜眠っていない私はとにかく横になりたくて寄り道もせずに帰ってきた。「お帰り」「ただいま。早かったのね」先に帰っていた公に声をかけられ、驚いた。それに、すごく良い匂い。「肉じゃが作ったの?」カバンも置かずに鍋の中をのぞき込んだ。「ああ。サンマの塩焼きとキュウリの酢の物もあるぞ」「すごい和食ね」ククク。と意味ありげに私を見る公。「何?」「どうせ、俺がいないと飯食ってないだろう?」「え、そんなこと・・・」ないよとは言えず、言葉に詰まった。確かに、公が側にいなくなってから私の食生活は完全に乱れた。朝は菓子パンかコーヒーのみ。お昼はサラダとサンドイッチではなく、忙しくてチョコやクッキーをつまんで終わることが多い。そして、夜はスーパーで買った総菜で1人チューハイを飲むという不健康きわまりない生活。当然、仕事に出ても体調不良であまり動けない。こんな生活は良くないとは分っていても、1人だと何もする気にならないのだ。「今日はたらふく飯を食わせてやる。もうすぐ翼も帰ってくるから、一緒に食うぞ」私は思わず公を見上げた。今日一日うちの病院で勤務した公は、翼の噂を聞いたはずだ。だからこそ、こうして夕食の準備をしてくれている。それがいかにも公らしい。私は、ありがとうって言葉を必死に飲み込んだ。***「お疲れ」「お疲れ様」「いただきます」チーンッ。とグラスが鳴って、3人の夕食。「旨そうですね」翼がサンマに箸をつける。「ああ、いつも山の中にいるからな、魚に餓えている」真顔で言う公だけれど、これは冗談。サンマなんてどこででも買えるから。「どんなところに住んでいるんですか」

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   翼の父登場 ③

    「うー、気持ち悪い」胃がムカムカするのを我慢しながら、結局一睡もすることなく私は出勤した。同じだけ飲んだはずの翼は全くいつもと変わらない顔をしていて、つきあってあげた私としてはなんだか悔しい。「山形先生、顔が怖ーい」病棟ですれ違った子供にまで言われてしまうなんて、まずいな。「2日酔い?部長が出張で良かったわね」偶然出会った夏美の嫌み。完全に部長に目をつけられてしまった私は、小児科の中では問題児扱いだ。本当に、今日部長がいたら大変だっただろうな。それだけでも幸運と思わなければいけないだろう。「でも、翼は紅羽よりももっとヤバそうよ」「えっ?」夏美の言葉に、顔を上げた。正直、今日は休むかもって思っていたのに、翼は出勤していった。今の状況は翼にとって針のむしろのはずで、きっとやり難いだろうなと想像できる。何とか早急に騒ぎが収まってくれれば良いけれど。***その日の夕方、私はたまたま救急外来に呼ばれた。時刻は午後6時。ちょうど開業医の受付が終わる時間とあって、かなりの患者で混雑している。「山形先生、お願いします」救急外来に入るとすぐに看護師から声がかかり、熱で元気のない赤ちゃんの診察をした。「お母さん、ミルクは飲めますか?」「いえ、あまり」「そうですか、水分は?」「飲めています」「じゃあ、無理せずに少しずつ水分を取らせてあげてください。今夜分の薬と座薬を出しますから明日外来に来ていただけますか?」「はい」何か変わったことがあれば救急を受診するようにと念を押し、私は赤ちゃんの元を離れた。あれ?その時、周囲の様子がおかしいことに気が付いた。みんなが遠巻きに翼を見ている。「なあ、検査急いでよ」「待ってください。今、準備します」不機嫌丸出しの翼に、若い放射線技師は慌てている。「だから、急いでっ」

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